『異世界転生アンチテーゼ』を読んで

密かに楽しみにしていたライトノベル小説が、昨日、1日に発売されました。

『異世界転生アンチテーゼ 転生魔王はチート転生者をチートで殺します 』
著者は小路燦(こみちあきら)さん
イラストはmmuさん


私は今までライトノベル小説をほとんど読んだことがありませんでした。
唯一読んだことがあったのは、大好きなおジャ魔女どれみの『おジャ魔女どれみ16』シリーズのみ。

普段なら読むはずもないラノベの一冊。
しかし、縁あって、手に取った一冊。
今回はその感想です。





ラノベを嫌煙していた、というわけではないのですが、やはり多少痛々しい目で見ていたという事実は認めざるを得ません。
タイトルがやたら長くて、主人公がチートでハーレムで、ドタバタなストーリー。
セリフが多くて、異世界転生が多くて、挿絵がいっぱい。
そして何より中二病。
そんなイメージを漠然と抱いていました。
(ライトノベルというジャンルに注目が集まったのが、私のラノベ適齢期を過ぎた後だったために、なかなか読む機会がなく、そういう偏見を持っているのかもしれません。)

ラノベ耐性がない私は、今回読んだ『異世界転生アンチテーゼ』も、最初は「痛い!中二病が!ああ!」という感情になりました。
感情移入できない、無理かも、と何度か本を閉じたりもしました(ごめんなさい)。

しかし、(強い心を持って)読み進めていくうちに、段々と慣れて、最終的には物語を楽しむことが出来ました。

痛さは、真骨頂。
痛いからこそ、いい!
ラノベ耐性がない方が遅れてる!
癖になっちゃいそう。

…という気持ちに、だんだんなっていきます(本当だよ)。

(ラノベで「中二病が痛い!」なんて言うのは、アンパンマンの絵本を読んで「子供っぽい」って言うくらい馬鹿げたことなのだと思います。)


そんな私の個人的な葛藤はさておき、内容について触れていきたいと思います。

人間と魔族が対立する「イグラリア」という(ご多分に漏れない)異世界で、転生者かつ人間である主人公が、なぜか魔族の王である「魔王」として君臨して(働いて)いるという設定。
主人公は自分に降りかかる絶対的な事象を反転させるチート能力の持ち主で、この能力を使ってチート転生者を返り討ちにしていくのが趣味だそうです。

小説全体を通して、「論破して、皮肉って、カウンターで殺す」という痛快なストーリーが3つほど盛り込まれた内容となっていました。


 以下、ネタバレ注意 


・対魔族特効の聖魔法を使う転移者(元は高校生)
・めちゃくちゃ強いのに普通の冒険者としてのんびりやっていくために、ギルドから極秘の依頼を受ける転生者(元伝説の英雄)
・ゲームの世界で桁違いに強かったキャラクターになって転生してきた半人半魔(元は社畜でネトゲ廃人)
・前世界で自分のポテンシャル的な限界を感じ、現世界での生まれ変わりを果たした転生者(元「魔術王」)

いろんな世界から、イグラリアに転生してくるチート能力の持ち主たち。
みんな善良な心をもった、人間から見れば「勇者」と称えたくなるような、強くて優しい人たちです。

転生モノでよく見る善意の塊みたいな人間。
魔王を倒せるほど強い、異世界からの転生者。

魔族に怯える人間からしたらありがたい存在だけど、それって本当に正義なの?

ただの目立ちたがり屋になってない?
そういう「ズル」していいの?

魔王を倒せるくらい強いチート異世界転生者は、倒すのが魔王だから英雄のように見えるだけで、世界の均衡を崩していることに違いはない。
そんなの侵略者と紙一重だ。いや、魔族からすれば、紛れもない侵略者だ!

そんな、異世界転生批判が随所ににじみ出る、面白い物語でした。
(ただし、RPGや転生モノの「当たり前」を知らないと楽しめない部分はあるかもしれません。)


この小説では、各転生者の視点で、転生者が仲間を得て、絆や愛情を育み、魔王へと挑むまでの過程も描かれます。

そして、懇切丁寧に視点まで変えて描いた転生者たちのストーリーや正義を、魔王が皮肉たっぷりに真っ向からぶった切る

主人公は、自分自身がチート転生者であることは棚に上げ、ハーレムを形成し、同じことをしているチート転生者を煽ってディスりまくって殺して面白がっているのです。

ただ、主人公の能力はカウンター特化。
相手から攻撃させないと勝てないので、煽りの併用は必至なのかもしれませんね。
こういう能力への一番の攻撃は「無視」でしょうから。

転生者の存在は、元々その世界に住んでいる人からしてみたら、理不尽そのもの。
転生者のもう一つの生き方を、身をもって示す主人公の姿は、達観と侮蔑と矛盾で歪んでいるように思えました。


ファンタジーであり、かつコメディ要素の強い作品ですが、魔王が良い雇用主であろうとするところとか、悪気のない行動を責めないという考え方なんかは、現代の社会問題や日常の不満への著者なりの回答でもあるのかなと思いました。
(50年以上魔王をやっている奴が、なんで現代の日本社会に敏感なんだろう、とか思ったりはしましたけど。)


皮肉というのは、放った側に優越感を与える強烈な表現だと思います。
そしてこの小説は「こういう見方もあると知っている自分」という自己陶酔にも似た快感を読者に与えてくれます。

主人公はどうやって自分自身の矛盾にケリを付けるのか。
続編の出版を期待したいです。

ラノベ耐性がなくて苦戦しただの何だのということを書きましたが、結局1日で読み終えてしまいました。面白かったです。


最後に。
全然物語には関係ないのですが、思ったことを1つ書いておきます。

何かを成し遂げる人というのは、それが表に出るか出ないかはさておき、誰しも心の中に「中二病クソムシ」を飼っているように思います。
魔力とか、闇の力とか、そういう中二病とはニュアンスが違うもので、尖り続けたり、信じ続けたり、夢中になり続けられるような、そういう「中二病クソムシ」です。
本気で中二病をできる人だけが、本物になれる。
小路燦さんには、まだまだ成し遂げてほしい。
どんどん中二病を発揮して欲しい。
本物だって、示して欲しい。

そんな風に、思いました。


全ての読者様に楽しんでいただけるような作品を目指して書かれたそうですので、私のようにライトノベル小説を読んだことがなかった方も、読まれてみてはいかがでしょうか。
少なくとも一冊読めば、ラノベ耐性つきますよ!


itoi

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