「傷つきたい時」に読むべき恋愛小説3選

今回は、私が読んで「傷ついた」恋愛小説を3つ、紹介します。
お時間のある方は、夏休みの本選びの参考にでもしてください。

まず最初に断っておくのですが、私は基本的に悲劇が好きで、ハッピーエンドだとしても、鑑賞した後に心にしこりが残るような作品を好みます。

特に恋愛小説は、頭を殴られた感覚になるような、心がズタボロに傷つくような、胸が引き裂かれるような、そういうストーリーが大好き。
とにかく感傷に浸るのが好き。

小説の好みというのは本当に人それぞれですので、そういった私の趣向をふまえて、今回の記事を読んでいただければと思います。


この記事で紹介する小説は以下の3冊です。

ナラタージュ/島本理生
愛なんて嘘/白石一文
イニシエーション・ラブ/乾くるみ
どれも有名な作家さんが書いた小説です。
『ナラタージュ』と『イニシエーション・ラブ』は映画化もされていますよね。
(小説は「外れ」だった時のガッカリ感がすごいので、できるだけ高確率で「当たる」ために、有名どころを攻めるのが定石、と考えています。)

では、順に紹介していきます。

ナラタージュ
著者:島本理生

私が読んだのは角川文庫から2008に発行されたものです。
読んで号泣しました。
私は「芸術鑑賞記録ノート」というノートに、見たものや読んだものの内容や感想を記録して、勝手に5点満点の評価を付けて記録しているのですが、ナラタージュは堂々の5点満点
これほど熱量を感じる恋愛小説は、なかなかないような気がします。

主人公は大学2年生。
母校で演劇部の顧問だった「葉山先生」に恋をしています。
「恋をしています」という表現に、こんなにも幅があっていいのかというほど、壮絶な恋愛模様です。
命を燃やすかのような、痛いほどの愛。
ネタバレを含んだ感想を読む

小野くん→主人公→葉山先生→奥さん
みんな両想いだけど、もっと大切な人がいる。

主人公が小野くんに別れを告げて、葉山先生は主人公に別れを告げます。
主人公と葉山先生の別れの夜、先生はセックスという役割を演じました。
そして先生は苦しそうな顔で

「これしかなかったのか、僕が君にあげられるものは。ほかになにもないのか」

出典: 島本理生『ナラタージュ』角川文庫,2008,395頁

と言うのです。

壊れてしまうほどの、愛。
こんなものは依存でしかないと思います。
現実世界ではこんな恋愛、絶対にしたくない。

タイトルに使われているナラタージュという言葉は

映画などで、ある人物の語りや回想によって過去を再現する手法。

出典:ジタル大辞泉(小学館)

とのことです。

つまりこの小説は、主人公の回想、ナラタージュ。
物語の冒頭で、主人公は結婚しており、旦那さんと喋っているシーンがあります。
そこから、大学2年生、さらには高校3年生にまで回想を重ねながら、物語が紡がれていくのですね。

だから主人公は、葉山先生との全てを、忘れていない。
きっと、ずっと、葉山先生を思い出しながら、生きていくのです。

裏表紙に書かれた内容紹介で「若き日の絶唱」という言葉が使われています。
作者は1983年生まれで、この物語が世に出たのは2005年。
つまり、作者が22歳くらいの時なのですね。
(それ以前にも、2001年に第44回群像新人文学賞優秀作を受賞されています。)
文章はどこか少し拙いようにも感じられますが、圧倒的な熱量があり、文章が迫ってくるような感覚になります。
まさに「絶唱」。

全411ページを駆け抜けるように読み進められます。
傷つきたいという歪んだ私の欲求を、満たしてくれる最高の一冊でした。

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愛なんて嘘

著者:白石一文

私が読んだのは新潮文庫から2017年に発行されたものです。

この本には

『夜を想う人』
『二人のプール』
『河底の人』
『わたしのリッチ』
『傷痕』

という6つの短編小説が収録されています。

この本は『愛なんて嘘』というタイトルの「なんて」という部分にエッセンスが詰まっていて、筆者の考える「愛」とは何かが分かる感じがします。
表紙には”Wahat we know is always the half of world.”という文章。
これは『夜を想う人』の中で、私たちは世界の半分しか知らないという内容があったため、そこからきていると思われます。

6つの物語では、不倫や駆け落ち、失踪など、ほんの数ミリ常軌を逸する、しかし自分の気持に誠実な男女の、歪んだ恋愛が描かれます。

共通して感じたのは、「お前が大事そうに抱えているその『愛』は本物か?」という問い。

登場人物たちには、
大事な気がして、捨ててはいけない気がして、しがらみだらけの中であなたが抱きかかえている愛のようなそれを、私たちはこんなに簡単に捨てることができる。
と見せつけられている気がします。

そして、なんと言ってもタイトルの「嘘」という部分が重要ですね。
この場合の「嘘」は、lieではなくfictionという意味。
つまり、愛なんて作り物だよ、というメッセージになっているわけです。

私の中では「恋人に読ませたくない本ランキング」1位の小説です。



イニシエーション・ラブ

著者:乾くるみ

私が読んだのは、2007年に文春文庫から発行されたものです。

最近読みました。
私はこの本を4年以上も前に買っていて、ずっと「読みたい本」として積んであったんですが、どうしても、何度か試してみても、なかなか読み進めることが出来ずにいました。
つい先日、また同じ事の繰り返しかもしれないと思いつつ手に取ったところ、読了することができました。
この本の、私の適正年齢がきっと今なんだと思います。無理して数年前に読まなくて良かったですし、この本のことを忘れたまま適正年齢を過ぎてしまわなくて良かったとも思います。

この本は帯にも書いてあるんですが、「ラスト2行ですべてが変わる」ので、読んでない方はネタバレ要注意です。

ネタバレを含んだ感想を読む

この本のどんでん返しは、1人だと思っていた主人公が実は2人だった、というもの。A面とB面がほぼ同時進行で、夕樹と辰也(「鈴木」「僕」「俺」として語られている)が別人物で、マユが二股をかけていた、というところでした。
ずっと鈴木夕樹が主人公だと思っていたのに、B面は鈴木辰也が主人公だった、しかもA面とB面は同時進行ですよ、という驚きの事実。

読み終わった時は、何が何だかわからなかったけれど、ネットの解説を読んで色々納得できました。
言われてみれば小さな違和感は随所にあって、そこを「まぁいっか」と考えるのをやめてしまっていたのが、最後にどっと返ってきた感覚です。

二股をかけているにしたって、マユは魅力的な女性に思えました。
あれだけ上手にやってのけるその巧妙さに、憧れすら抱きます。
妊娠して、中絶までして、その傍らで夕樹を射止めるとは、怖い女性です。

仕掛けがすごい一方、恋愛ストーリーがチープだという批判があり、著者の乾さんも認めているらしいです。
でも、私は、この恋愛ストーリーがめちゃくちゃ好きです。
イニシエーション(通過儀礼)・ラブという表現は、とてもグッときます。
私たち(大学生くらい)の恋愛なんて、子どもから大人になるための儀式みたいなもの、その程度のものなんだ、というメッセージ。

ちなみにこの作品は2015年に映画化されているようなんですが、どうやって描いたのか、謎すぎます。
だって、同一人物だと思い込ませて実は違う人間でしたっていうのが最大の見せ場なのに、そんなのどうやって映像にするんだよ、と。
でも、映画の広告には「最後の5分 すべてが覆る。」って書いてあったので、きっと上手く作られているんでしょうね。
今度視聴したいなと思います。

殴られたみたいな感覚になる、見事な裏切り
ミステリーと言われるのも頷けます。

それから、恋愛ストーリーも私は高く評価。
ここ数年で処女・童貞を捨てました卒業しましたという人は、今のうちに読んだ方が面白いかも知れません。





以上、「傷つきたい時」に読むべき恋愛小説3選を並べてみました。
傷つきたい人がもしいたら、参考にしてみてください。

ちなみに、「こんな歪んだ恋愛じゃなくて、もっと純粋なのが読みたいんや!」という人には、キラキラ輝いてるけどエモい最高の恋愛小説『14歳の遠距離恋愛』も超オススメです。

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私はこの夏、気になっていた小説を何冊か読もうと思っています。
この夏、良い本に出会えると良いな。

みなさんにも、良い本との出会いがありますように。

itoi

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