最近、「黒川検事長」という人が話題なのですが、ご存じでしょうか。
本名は黒川弘務(くろかわひろむ)さん。
顔写真は載せられないので、Googleで検索してみてください(三谷幸喜にちょっと似てる)。
どうして話題かというと、このオジサンの定年が半年延長されることになったからなんだそうです。
オジサンの定年の時期で大勢が騒いでると思うと、ジワジワきますね。
これ、何がそんなに問題なん?
てか、なんで延長されることになったん?
気になって調べてみたらけっこう面白い話だったので、共有したいと思います。
検事長って何?
検事長というのは、検察のエラい人。
警察は悪い人を捕まえたり、どんな悪いことをしたか調べます。
そしてその調べた結果は検察に送られます。
で、その人を裁判にかけるかどうかを決めるのが検察です!
なんと、検察が今回だけは許しましょうってことにしたら、裁判にかけられなくて済むのです。
そして、黒川検事長は検察のナンバー2。つよい!
(ナンバー1の「検事総長」は、稲田信夫(いなだのぶお)さんという人です。)
検察はちょっと特別
いきなりですが、「三権分立」を思い出してください。
司法(裁判所)
立法(国会)
行政(内閣)
がお互いに独立して、どこか一つに権力が集中しないようにするやつです。
出典:首相官邸きっず(https://www.kantei.go.jp/jp/kids/sanken_sanken.html)
検察は行政の一部で、検察官は公務員。
(内閣にはいろんな省庁があり、検察庁は法務省の機関です)
しかし、裁判にかけるかかけないかを決める仕事なので、司法的な立ち場もあると言われています。
行政の一部だけど、司法的な立場もある……。
だから検察は「検察庁法」という法律で政治権力からの独立が保証されていて、ちょっと特別なんです。
悪いことをした大臣を裁判にかけるのも検察だから、大臣とかの顔色を伺わなくてもいいように工夫されているというわけです!かしこい!
なんで定年が延長になった?
これは簡単。
閣議決定されたからです。
閣議は内閣の会議ですね。
黒川さんは2月7日で定年退官する予定でしたが、1月31日に「定年の半年延長」が閣議決定され、今も検事長として働いています。
出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/guide/guide03.html)
検事長の定年延長が閣議決定されるのは初めて。
なんで延長したのか、ということについて法務大臣は
「東京高検検察庁の管内において遂行している重大かつ複雑困難事件の捜査公判に対応するため、黒川検事長の指揮監督が不可欠であると判断したため」
と説明してます。
黒川さんにしかできない大事な仕事があるから、もうちょっといてもらうことにしました!ということですね。
そっかー!じゃあしょうがないよね。頑張ってね黒川さん!
と思いますよね。
普通の企業でもこういうことはよくありそう。
でも、この閣議決定、実は法律違反かもしれないらしいのです。
定年は延長したらダメなの?
検事長の定年は法律で決められています。
さっきも出てきた「検察庁法」という法律で、
検事長は63歳、検事総長は65歳で定年退官することが決まっています。
いくら閣議決定でも法律に反するものはダメですよね。
ダメじゃん!違法じゃん!……と思ったのですが、法務大臣は合法だと言っているのです。
検察庁法 vs 国家公務員法
法務大臣は「国家公務員法」に基づく合法的な人事だと言っています。
その法律では、国家公務員の定年制度について「退職により公務の運営に著しい支障が生じる場合、定年を延長できる」としているんです。
検察庁は法務省の機関で、検事長は国家公務員ですから、確かにこの法律が適用されそうですよね。
えっ、じゃあ、「検察庁法」と「国家公務員法」は矛盾してるってことなの?
作った人バカなの……?
と、笑いかけたのですが、そんなことはありませんでした。
国家公務員法には、定年の延長について「(他の)法律に別段の定めのある場合を除き」適用するってちゃんと書いてあるのです。
他の法律で特別に決められている場合は除くわけなので、検察庁法で決められている今回の件は国家公務員法は適用されないことになりますね。
しかも、この法律について話し合われていた当時(1981年)、人事院は「検察官に国家公務員法の定年制は適用されない」と言っています。
さらに、特別に決められてる場合ってのは、例えば検察官とかですよ~って書いてある資料も見つかっている……!
「検事長の勤務延長の閣議決定の違法無効」を完全立証する資料を国立公文書館で発見。
— 小西ひろゆき (参議院議員) (@konishihiroyuki) February 23, 2020
国家公務員法審議に当時の総理府が製本した国会想定問答集の中に「検察官には勤務の延長の適用は除外される」と明記。
解釈変更の余地など一ミリも無い。
違法人事による検事長、検事総長など絶対に許されない。 pic.twitter.com/3fpvxlAe21
検察庁法、WIN!
やっぱり閣議決定は違法じゃん!ダメじゃん……!
法律の解釈が変わりました!
2月13日、安部総理は言いました。
「国家公務員法の規定が適用されると解釈することとした」
つまり
今まではダメだったけど、今回、OKって考えることにしました!
ということですね。
形勢逆転!
国家公務員法、WIN!
ということで、黒川さんは63歳になっても定年せず、今も検事長なのです。
法律の解釈って、誰が決めるの?
前述の通り、今回内閣は、1981年からずっと続いてきた「検察官は適用外」という考え方を変更しました。
しかし、疑問は残ります。
法律は国会が決めますが、法律の解釈は内閣が変えてもいいのでしょうか?
てかこれって、解釈の変更っていうか、適用範囲の変更じゃないの?
適用範囲の変更って、法律の変更じゃね?
法律を変えるなら、改正案を国会で審議しなきゃいけないのでは?
内閣が法律に縛られているからこそ、三権分立は成り立っているんじゃなかった?
てか、なんでそこまでして黒川さんの定年を延長するの?
しかも半年だけなのに、なんで……?
さて、なぜなんでしょうか?
実は、現在の検察庁トップである稲田検事総長は、今年7月末くらいに退任予定なんです(定年ではなく退任。詳しい理由はコチラの記事に)。
黒川さんは検察のナンバー2ですから、トップが定年すれば、まぁ順当に昇進できますよね。
黒川さんはトップにならずに辞めるはずでしたが、今回の閣議決定で定年が半年延びたことで、検事総長に昇進する道がひらけました。
黒川さんが昇進したかったのか、それとも政府が黒川さんを昇進させたかったのか、はたまた本当にのっぴきならない理由があるのかも……。
そして、内閣の会議で検察の人事が変わる、このことが意味するのはどんなことでしょうか。
悪いことをした大臣を裁判にかけるのも検察だから、大臣とかの顔色を伺わなくてもいいように工夫されているはずでしたが……「忖度」する検察官も出てくるかもしれませんね。
気になることがいっぱい。
もっと詳しく知りたいという方は、新聞記事などを読んでみてください。
オススメはこれとか↓
それにしても、新聞記事とかって難しい言葉ばっかりで本当に読みづらいですよね。
このブログが読みにくい記事になっていないことを祈ります。
なお、とても慎重に調べながら書きましたが、素人なので間違えているところがあるかもしれません。見つけたらご指摘お願いします。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
追記(2020/05/10)
再び話題になったので、続編の記事を書きました。
itoi